故人が遺族のために残した財産。その分割をめぐり家族が骨肉の争いになることも少なくありません。この記事では、こうした遺産相続のトラブルを防ぐことができる「遺言書」についてまとめてみました。ぜひ参考にしてください。
遺言書の種類
遺言とは、自分が亡くなった後、財産を誰にいくら託すのかなどを意思表示することです。また、この意思表示を書面にしたものを「遺言書」と呼び、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの種類があります。また、それぞれ書き方が異なり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言を作成する人が、その全文を自分で書き記した遺言書のことです。自筆証書遺言には、遺言書を書いた日を明記するとともに、署名と押印を必ず行わねばなりません。押印は認印や母音も認められます。ただし、代筆やパソコンで作成された遺言や、夫婦の共同遺言は認められないので注意しましょう。
自筆証書遺言のメリットは、自筆なので作成に費用がかからないことと、いつでも書き直しや修正ができることです。一方、デメリットは書き方を間違えると無効になることや、家庭裁判所での検認手続きが面倒なこと、また滅失したり偽造される恐れがあることなどが挙げられます。
2019年の法律改正により、財産目録を添付する場合は、その財産目録は自署でなくてもよいことになりました。
2020年7月より、自筆証書遺言の保管制度が開始されました。今までの自筆証書遺言は、書いた本人が亡くなっても、遺言が発見されず、故人の遺志が相続に反映されないリスクがありましたが、法務局で保管することで、紛失のリスクを減らし、家庭裁判所での検認の必要もなく、相続がスムーズに進むメリットがあります。
(2)公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言の内容を伝え、公正証書にして公証役場で保管する方式のことをいいます。証人2名の立ち会いのもと、遺言の内容が正確であることを確認し、遺言者と公証人が署名・押印を行います。
公正証書遺言のメリットは、専門家が遺言書作成に関わるので正確性が担保されることと、原本が公証役場に保管されるので、破棄・改ざんの恐れがないことが挙げられます。
デメリットは証人2名が必要となり、作成する際に費用がかかることです。
(4)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言を誰にも見られたくない、内容を知られたくない場合に利用する方法です。遺言者が自分で書いた遺言書を、証人2名の立ち会いのもと公正役場に提出するので、遺言書が本人のものであるということを明確にできます。
秘密証書遺言のメリットは、遺言の内容を秘密にできること。デメリットは証人2名が必要となり、自分で保管するので紛失や盗難の恐れがあることです。
公証役場に出向く手間や費用が必要な割にはリスクが高いのであまり利用されていません。
遺言書の効力
それでは、遺言書がどのような効力を発揮するのか詳しくご説明します。
【相続人を排除できる】
相続の対象となる人物が、被相続人(遺言者)に虐待・侮辱などを行い、それが法律によって定められた排除理由として認められた場合は、遺言によって対象の相続人を排除できます。
【相続分を指定できる】
法定相続分で決まっている遺産の取り分を自由に指定できます。例えば、法定相続分では妻の遺産の取り分は「遺産全体の1/2」ですが、遺言書を利用すれば「遺産全体の2/3」に変更することもできます。
【遺産の分割方法を決めることができる】
遺産を分割する方法を指定できます。「どの遺産を、誰に残すのか」を決めることができ、遺産の分割方法を第三者に委託できます。
【遺産を遺贈できる】
法定相続人に含まれない人にも遺産を遺贈できます。特定の団体やお世話になった人などに遺産を譲りたいと思った場合は、遺言書にその旨を明記しておきましょう。
遺贈を受け付けない団体や税金の問題が発生する場合がありますので、相続人以外への遺贈は注意が必要です。
【遺言執行者の指定】
遺産の名義変更の事務手続きなど、遺産相続を執行する人物を遺言で指定することができます。
遺言執行は煩雑で手間がかかるものです。ご家族よりも行政書士や弁護士、司法書士などの専門家にお願いして執行者に指定させてもらうことをお勧めします。
遺留分とは
遺留分とは、法定相続人に認められる最低限の遺産取得分のことを指します。
相続人の権利を保護するために定められた制度で、例えば、遺言書に「孫に全財産を遺贈する」と書かれていても、法定相続人である子供は「遺留分」を主張することができます。
遺産相続をめぐる争いのほとんどは、この遺留分に関するトラブルと言っても過言ではないので、遺言書を作る際は、遺留分という制度を十分に理解して作成する必要があります。
遺言書を残すメリットとは
遺言書を作成する最も大きなメリットは、相続時にトラブルが発生する可能性を軽減できることです。
相続が発生すると、相続人全員の意見を一致させなければ遺産を分けることはできません。もし、遺言書を残していなかった場合は、家族であるはずの相続人同士で争いが起きることもありますが、遺言書が残されていれば、そうしたトラブルが起きる可能性も低くなります。
また、どの遺産を誰にどのような割合で相続させるのかが、あらかじめ遺言書で決められていれば、相続人が集まって遺産の分け方を決める遺産分割協議も不要になるので、遺産分割に伴う手間を大幅に省くことができます。
この遺産分割協議を行う際、相続人の中に未成年者がいると、遺産分割協議のためだけに特別代理人を選任しなければならなくなるので、かなり複雑な手続きが必要となります。遺言書を残しておけば、こうした手間を省略できることもメリットの一つといえるでしょう。
遺言書の作成は専門家に依頼を
遺言書は書き方を誤ると無効になることがあります。そのような事態を防ぐためにも行政書士、税理士、弁護士などの専門家に遺言書作成を依頼しましょう。