親の財産管理を親族が行っている場合の不安

親が認知症になった時、その財産は子供や兄弟などの親族が管理することが多いのではないでしょうか。しかし、後見人として選任された一部の親族が親の財産を勝手に使ってしまう事件も後を絶たないようです。
そこで今回は、親の財産管理を親族が行った場合に起こりうるトラブルや不安についてご紹介しましょう。

専門職後見人をつけるケース

成年後見人を選任する権限は、家庭裁判所にあります。家庭裁判所は、認知症の高齢者あるいは障がい者に家族がいる場合も、あえて行政書士や司法書士、弁護士などの専門家を後見人に選任することがあります。具体的には、次のようなケースでは、専門家が専門職後見人として選任されることになります。

(1) 専門知識が必要であり、家族が後見業務を行うことが困難な場合 
例えば、相続問題や回収すべき債権があり法律の専門知識が必要なケースでは、専門職後見人が後見業務を行います。

(2)家庭内に紛争があり、家族の中で誰を後見人にするのか決められない場合

(3) 身体的、経済的な虐待が疑われる場合 
このケースでは、成年後見の目的は虐待からの解放になります。対応が非常に困難なので、経験豊富な専門職が選任されます。

(4)本人(被後見人)による家庭内暴力があり、親族が後見人になりたがらない場合

親族が財産管理をした場合に発生したトラブル事例

次は、親族が財産管理を行った場合に発生したトラブル事例と、その解決策についてご紹介します。

【事例1】
父はすでに亡くなっており、認知症の母がいる。家の権利書と預金通帳を姉が管理しているが、姉にお金の出入りを確認しようとしても拒否される。母のお金を姉が勝手に使っているのではないかと心配だ。

【事例2】
母が亡くなった後に遺産相続をしようとしたら財産がほとんど残っていなかった。どうやら後見人になった兄が多額の預貯金を引き出して使っているようだ。

回答・・・事例1、2のように、親の財産が親族により不正に使われる恐れがある場合は、成年後見の申し立てをすることを検討してください。

後見人が選任された後に、親の財産を横領している親族が通帳を引き渡さない場合は、成年後見人の権限により、通帳の再発行・改印の手続きを行うことができます。

また、親族間で争いがある場合は、弁護士などの専門家が後見人に選任されることになります。

【事例3】
父が急に認知症になり、自分でお金を管理できなくなっている。通帳やカードが何なのかも理解できなくなっているようだ。預貯金がいくらあるのかも、思い出せないようなので、父のかわりに金融機関に問い合わせたい。

回答・・・家族が金融機関に問い合わせても、預金額は個人情報なので教えてはもらえません。このような場合は、家庭裁判所に成年後見の申し立てをし、成年後見人が財産を管理することが望ましいでしょう。

【事例4】
父は元気なのですが金銭に無頓着なので、当家の財産の管理は全て母が行っている。母は弟を溺愛しているので、実印や預金通帳などは全て弟に預けているようだ。しかし、弟は金遣いが荒いので母の財産を使い込むのではないかと心配だ。母の財産について尋ねても弟は何も言わず、銀行や郵便局の証書なども見せてくれないので、母の貯金の残高を弟以外の親族はつかめない状態だ。

回答・・・お母さんの委任状があれば、預金の残高の照会ができ、また預金を引き出すこともできます。(金融機関により対応は異なります。)もし、お母さんが認知症になっているのであれば、成年後見の申し立てをすることをおすすめします。成年後見人が選任されれば、詳細に調査をしてお母さんの財産を管理してもらいましょう。

親族後見人による横領事件が増加
最高裁は、成年後見制度の利用者が2012年に受けた着服被害の総額は45億7000万円にのぼり、その加害者の90%は親族後見人だと見ています。

こうした親族後見人による横領事件が増加してきたことから、行政書士などの専門家を成年後見人に選ぶケースが増えています。

後見人をつける認定基準とは
「もの忘れが激しくなった」「お金の計算ができなくなった」といった症状が高齢者にあらわれた場合は、認知症の疑いがないか、専門医を受診するなど確認をするのがよいでしょう。

親族が後見人になることに不安がある場合は、行政書士などの専門家に後見人を依頼するということも、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

成年後見人が選任されるのは認知症になった場合のみですが、その認定基準はどのように決められるのでしょうか。その指標の一つとなるのが「長谷川式認知症スケール」です。

このスケールは、多くの医師が認知症の診断に使用している検査で、精神科医の長谷川和夫氏が開発したものです。

検査は10分~15分ほどで終わり、その場で内容を確認することができます。

長谷川式認知症スケールは年齢や時間、場所、作業などについて9つの設問があり、各設問で点数が割り振られ、その点数により認知機能について判断を出します。

なお、長谷川式認知症スケールはあくまでも認知症の疑いについての検査であり、同検査の結果だけで認知症と判断されるものではありません。

実際の診断では知能検査や身体検査、脳検査、問診などが行われ、その結果を総合して判断が下されます。

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